<クム>
住民の信仰心の深さもさることながら、1930年代半ばに絨毯作りに着手して、30年足らずのうちに数百年の歴史を持つ産地と肩を並べるまでに発展させた、そのエネルギーも敬服に値します。今から半世紀前に右も左も分からぬクムの職人の指導に当たったのはカシャンの人々でした。クム絨毯の品質の確かさは、その師に負うところが大きいのです。 しかし、カシャンと異なり、守るべき伝統を持たぬ新興産地の強みで、最も正統的なメダリオン・唐草文様から遊牧民風の幾何学文様まで、イラン各地のありとあらゆるデザインを採用してゆきました。材料も、羊毛、シルク、パート・シルクと様々な試みがなされ、絹という高級なイメージの素材に鄙びた素朴な直線文様、というちぐはぐな組合せも、クムならではの個性でしょう。
<イスファファン>
テヘランから南へ約400km、イラン高原中央部に位置する古都イスファハンは、シャー・アバスがこの地を首都とした17世紀がその黄金時代といえ、かつ ての宮殿や遺跡の数々がサファビー朝の栄華を今に伝えています。
この時代を通じてイスファハンの絨毯は世界で最も美しいものの一つとして高い評判をかち得 た。とりわけ有名なのがシャー専属の工房があり、そこで作られたいわゆる‘ポロネーズ’と呼ばれる絨毯でした。それらは通例ヨーロッパの支配者に進呈す るために製作された。現在も熟練した織り手により伝統は守られ、グレードの高い絹の地糸に羊毛のパイルを用いた美しい絨毯が製作されているが特徴です。
<カシャーン>
カシャーンはテヘランの南約300kmに位置する古い都で古くから織物の歴史を持っています。現在、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館所蔵の有名な ‘アルデビル絨毯’はカシャーンで製作された。カシャーンは絹の織物でも有名で、それゆえ見事なシルク絨毯も製作されていて、ウール絨毯は地糸に木綿、シ ルク絨毯の地糸には絹も用いられています。
結びはペルシア結びが用いられています。
<ナイン>
ナインはイスファハンに近いイラン中央部に位置するオアシスの町で、かつてはアバスと呼ばれる伝統衣服を製造していました。この産業はかつて西欧スタイルの衣 服の流行により衰退し、織物職人はその技術を絨毯製作に切り換え、当初から緻密な織りのラグを作り出しナインは世界に知られる絨毯産地となったのです。
地色は アイボリー系が多くブルーやレッド、グリーンなどで細かい文様を描き、明るく落ち着いた色調を醸し出していて、白い絹糸でモティーフの輪郭をとり文様を浮 かび上がらせる手法が特徴となっている。木綿の地糸に羊毛のパイルでペルシア結びを用いています。
<タブリーズ>
タブリーズはイラン北西部標高1,360mに位置する高原都市で、17世紀以来最も主要な絨毯の生産地である。夏は涼しいが冬は寒く厚い雪で覆われてしま う厳しい気候であるが、古くから東西交通の重要な位置にありヨーロッパとの交易の要衝と言えます。19世紀にはイラン商業の中心地としてタブリーズ商人の絨 毯産業における活躍ぶりは目を見張るものがあります。
輸出用の絨毯が中心で、タブリーズの織り手は男性で特別な鉤針を用いるため、力強く整然としたきれいな仕 上りが特徴である。ヘラティ(マヒ)デザインやメダリオンデザインが中心で、素材は地糸に綿、パイルはウールで一部絹を用いたものがあり、トルコ結びを用 いているのが特徴です。また、絵画調の絨毯を最も得意とする工房も多数あります。
その他の地域
<カシュガイ>
カシュガイはファールス地方の部族の名で、カシュガイ族はカスピ海方面からイラン西部に移り住んだトルコ系遊牧民族です。コーカサス地方に見られる幾何学 文様が特徴のキリムを多く産出する。遊牧民の多くは今日定住化しているが今も水平織り機を使い、家畜の羊から取った毛で糸を紡ぎ、植物染料を用いるなど伝 統を守り続けています。
動物や鳥、騎士、樹木などを素朴な形で表した文様が多く、特に三叉に別れた幹をもつ生命の木は多くのラグに使われていて、地糸もパイ ルも羊毛で、柔らかくたためるラフなタイプが特徴です。
<バルーチ>
バルーチ族の名に由来しているラグは「マシャッド・バルーチ」ともいわれ、羊毛の地糸に羊毛のパイルで織られ、しなやかな感じでラフな敷物として人気があります。デザインは幾何学的なものが多く、幅の割に長さのあるサイズが多いのが特徴です。
<サルーク>
サルークはイラン西北アラク地方の織物と農業が中心の村で、絨毯のデザインは古典的なメダリオンや花模様が好んで用いられています。この地方のラグは珊瑚色の赤の独特のぼかしが特徴です。
<シラーズ>
イスファハンから南に約500km、イラン南部のファールス地方の都市で今は観光地として名高いところ。アケメネス朝の有名な遺跡‘ペルセポリス’や、詩人のハーフェズやサーディーの廟などがあります。